<10月中旬の読書>

ロズウェルなんか知らない」篠田節子 講談社1700本
寂れた何もない村「駒木野」の青年団による村おこしのドタバタを真面目に描いた奮闘記。荻原さんの「メリーゴーランド」を読んだばかりで、題材自体に新鮮味は無いけれど、破れかぶれの“四次元化計画”という奇策を打ち出すアイデア、そして次から次へと繰り出す技を主要登場人物の立場から多面的に破綻無くまとめるところが篠田さん。彼女は「狂気」(精神的破綻の意ではなく、物に憑かれ、のめりこみ没頭していくって意味合いの)を描かせると本当に恐ろしいほどに上手いのだけど、力技でなく、計算し尽くして且つ自然に収めてるという印象。この物語ではその辺うまくコントロールされてて、上げたり落としたりで最後に陽の狂気に突入、ってところで前向きに締めているのもいい。さすがです。

「どこかに神様がいると思っていた」新野哲也 新潮社1400本
燃え尽きた商社マン、証券マン、画家や半ヤクザもん、世捨て人、永久追放の柔道家に流れ者の港の運び屋など、人生の敗北者のような男達と彼らがつかんだ希望のようなものを情を排除して淡々と描いた短編集。おセンチなストーリーにも関わらず、見事に感傷も同情も共感も全く無い、事実だけを記述する作風が結構心地よい。

<10月上旬の読書>

「美食探偵」火坂雅志 講談社1900本
明治時代を中心に活躍した実在の小説家、村井弦斎を主人公にした連作。50万部を越える大ベストセラー、本邦初の美食小説『食道楽』を書き始める時期の弦斎が、大隈重信伊藤博文山県有朋ら当時の名士たちの住まう湘南の海岸、別荘地で活躍する。やや心もとない相棒、大磯の海水浴旅館(涛龍館)の医学助手山田君、マドンナ尾崎多嘉子ら。金髪の幽霊、女形の毒死、内閣総理大臣の大隈の失踪、箱根の山荘の一家消失、伊藤家の別邸で死んだ芸妓の謎など気楽な推理物だが時代背景が楽しい。弦斎の長女、村井栄子さんのエッセイを参考に挙げている。どんな作品なんだろうなぁ。

「しかたのない水」井上荒野 新潮社1500本
あるフィットネスクラブを共通点とする人々を主人公にする連作。設定はありがちだけど、それそれのお話が、実に女性らしい残酷で皮肉な目線で描かれている、それでも読後感が悪くないのが持ち味で、確か2冊目の井上さんを見直す。からっぽの自分と幻想とに生きる登場人物達、それを冷酷な目で見ながら決して否定はしていないところが読後感に繋がるのかも。

「食のほそみち」酒井順子 実業之日本社1400本
「負け犬の遠吠え」の方の「週刊小説」連載の食に関するエッセイ。年齢的には近いはずなのに、かなり小食な著者と食い意地がはった自分とで、食に関する感覚は見事に接点がなく、やけに丁重な言葉使いに最後まで馴染めず。
美食探偵

<9月旅の後の読書>

アキハバラ@DEEP石田衣良 文芸春秋1700
あるHPをきっかけに集まった3+3人で出来上がった会社アキハバラ@DEEP。オタクで半引きこもり、社会に適応できてない仲間が集まってできあがったAI型検索エンジンのβ版。これに目をつけたIT業界の王者に実力行使されソフトを盗まれてしまう。そして戦うために立ち上がる6人。意識をもったコンピュータソフトやAIの話はまあ良くある話で、具体的な方法論は当然描かれないので、物語の完成度としてはイマイチだけど、若者の“熱”を書かせるとさすが石田さん。個人的には説教調、世間の良き指標としてよりは、熱い物語を書いて欲しい。

「犬はどこだ」米澤穂信 東京創元社 ミステリ・フロンティア1680
不本意なUターン、引きこもりからようやく復活し、犬探しの事務所を開業した25歳紺屋。がいきなり持ち込まれたのは人(プログラマー佐久良桐子(とうこ)探し。探偵にあこがれる後輩、ハンペ−(半田平吉)が地元の古文書由来調査に協力。二つの調査が関連しつつ物語が進行、桐子の失踪の影にストーカーがいて、彼女の足跡を辿ると最後には思いがけずハードな結末。(ハンペー君はほとんど狂言回しの道化的存在)米澤さんの物語は一見突き放して、実は突き放しきれない情というか、未来への期待のようなものがいいのだけど、このお話にも同じ持ち味が活きてる。ブラックな結末にも後味のまずさはなく、主人公のやや後ろ向き加減がかもし出す印象が新鮮。今後に期待(たぶんシリーズ化されるのでは)

「四十日と四十夜のメルヘン」青木淳 新潮社1575
新聞書評で高橋源一郎が絶賛しててリクエストしてみたけど、実に不可解で、私にはちょっと理解不能。チラシ配りを正業とする女と彼女の描こうとする物語、師の描いた修道院を舞台とする物語が繰り返され、混合し、変容し、唐突に終わる。幻想的といえば幻想的だけど、どうも私は前衛的な作品とは相性悪し。

<9月旅行中の読書>

junko-jjb2005-11-27

旅行に持っていく本というのは、すごく悩む。一週間だと3冊は必要でしょ(たとえ読まないにしても)。バランスも大切だし。旅先で処分できるくらいの思い入れ具合の本も必要。できればミステリと時代物も入れたいところだけど。

「夫婦公論」藤田宜永小池真理子 幻冬舎文庫572本
旅では読めず捨てようか、と最終日夜めくっていたら面白い。帰りの機内で読了。夫婦そそって直木賞受賞作家のお二人の男性・女性論だが、一般論にとどまらずお二人の互いへの気持ちや、仕事に対する真摯な姿勢が見えてくる。まだお二人とも若く歳をとる(老いる)ということは意識に上らない。今ならどうだろう。十年毎くらいに公論していただくと面白い。

「がんばれ小鳩組」荻原浩 集英社文庫667本
倒産寸前の弱小広告代理店が受けた仕事はヤクザ小鳩組の企業CI。ヤクザのイメージアップという無理難題にアル中、バツイチコピーラーター杉山とその仲間達が四苦八苦。加えて別居中の娘が転がり込んで・。必死のお仕事はダメ男の復活のお話でもある。すっきり笑えてちょっぴり泣けるサラリーマン小説。デビュー作「オロロ畑でつかまえて」の続編らしい。

再読「ヨーロッパぶらぶらり」山下清 ちくま文庫550
絶対オススメの旅本。山下画伯から見たヨーロッパと人間。旅のお目付け役式場先生のあとがきが昭和36年11月なので、40年以上前の本だけど、今読んでも少しも古くない。教訓めいた意図は全く無いのに、思わずわが身を省みることしきり。やっぱ日本っていいなぁなんてしみじみもする。彼の旅の始まりスウェーデンデンマークの辺りは今回の旅とも重なり、印象的。画伯のスケッチも素晴らしい。スカンセンでは思わずスケッチの建物を探してしまったデス。行きの飛行機の中で。

その他旅に持っていった本は観光ガイドるるぶ北欧」の一部(前回必要部分だけにバラした)、インテリアデザイン系のガイド「北欧案内」(株)プチグラパブリッシング1000本、「ひとり歩きの英語自由自在」JTB920本。実際には会話本を読むことはまず無いし、必要な時は遅いんだけど一人旅の心理的おまもり。その他、探し物やショップの資料はコピーで持っていき、現地でどんどん処分する。地図は一番馴染んだもののコピーをポケットに。黒の表紙は旅メモ用にマルマンのニーモシネというビジネス手帖シリーズ。ちょうど良いメモノートというのは実はなかなか無いんですね。これ気に入ったので旅後にストック購入しました。

<9月旅行前の読書>

「反自殺クラブ IWGP5」石田衣良 文芸春秋1600 
IWGP1で街、若者、悪意を描写する圧倒的な筆力にうなってから、何年になるだろうか。
本作では、スカウトマン、学生サークル出身者の悪行、伝説のロックスターの詐欺、中国の劣悪労働環境、流行のお人形、自殺サイトと心療内科といったどこかで聞いたことのある今時のニュースをテーマに。どうも石田さんは直木賞受賞以降ストリーテラーとして溢れ出る物語を書くより、若者を導くメッセンジ的要素の話が多くなってきた。

「はなうた日和」山本幸久
 集英社1575
世田谷線沿線に住む人たちを主人公にした連作。この主人公達がちょっとぼやっと、というか時代からは少し遅れ気味みたいな、嫌味じゃない程度に気の抜けたところのある人ばっかりで、ちょっとほろっときて、自然と和むようなお話。自分自身を世の中に対してどう位置付けてるかによって好みが分かれるかもしれない。私は分けたら多分こっち側(笑)

「メリーゴーランド」荻原浩
 新潮社1700本
都会からUターンして地方公務員になった遠野啓一。異動先は赤字テーマパーク駒谷アテネ村のリニューアル推進室。経営感覚ゼロのお偉いさん、公務員ならではの理不尽が横行する中で、昔の劇団仲間、ヤンキーくずれの建築会社の若い衆達、プライドの高いデザイン会社の担当らと奮闘する。ダメダメな地方行政、ひいては日本に希望はあるのか、遠野家の平和と未来は?単純なハッピーエンドにしないあたり好感が持てる。コミカルなだけに選挙真っ最中の今、きつい皮肉でもある。

<8月下旬の読書>

「風の歌星の口笛」村崎友 角川書店1500本
第24回横溝正史ミステリ大賞受賞作。2217年交通事故から回復し愛する女性を失った男、偉大なマザーコンピューター、マムに統べられ機能を停止しつつある街、絶滅に瀕した地球から地球を模して創られた人工惑星へ探索に向かう調査員。未来のどこか3つの物語がつながるロマンチックSF(ミステリ)。ミステリとしては?で、欠点だらけだけどどっぷり浸る小説好きの私はいい感じに浸ってた。が最後の最後に納得いかず。(その辺り坂東真砂子さんの評がずばり)

「白いへび眠る島」三浦しおん 角川文庫629本
三浦しおんさんはエッセイが人気の方。こんなに素敵な(J好みの)小説も書いていたんだなぁ。(平成13年作品)
南海の小さな拝島(おがみしま)。不可思議な異界の力との戦いを題材にした島を舞台とする伝奇的な味付けの青春物語。なんと言っても悟史と光市という二人の青年が魅力的。違和感、疎外感を抱え島を出たいと思う悟史と、彼の目を通して島の魅力そのものでもあり、希望でもある光市を見る読者は、憧憬、畏怖、時に嫉妬を感じる。
この作品映像化したらどうだろう?オカルトテイストをちょっぴり入れて、島の自然と、二人の少年(青年)の夏の冒険物語で。 全部を説明することはできないけど、この夏Jの一番です。

<8月中旬の読書>

気が付いたら8月10日から本のメモが途絶えているのでした・・
これじゃ以前と同じ道を辿ってしまうことになります。なんとか建て直しましょ。

神様ゲーム」麻耶雄高 講談社ミステリーランド
さすが本格推理界の奇才麻耶雄高さん。前にも書いたけど、このシリーズは小学校高学年辺りがターゲット。作家さんの真価が問われます。 本作品は中でも一番の問題作で、これを小学生がどう受け止めるのか。いやはや。
連続猫殺しを推理する芳雄たち。同級生鈴木君は自分を神様という少年。親友が殺され、芳雄は神様に犯人に天誅を下すことをお願いする。そして起こった出来事は・・。それは真実なのか? 

「サマー/タイム/トラベラー1、2」新城カズマ ハヤカワ文庫JA各660本
信州の南の中都市、の頭でっかちなSF好きの高校生5人。ある日突然、短いタイムトラベルをする悠有。その気まぐれな才能?の開発と街に起こる連続放火事件。彼女がそれをコントロールできるようになった時、5人は狂言誘拐を企てる。
地方の小都市出身の人なら共通して持っている閉塞感、当たり前に「外」に向いた意識、いつかこの季節が終わることを判っていて、でも直球で感情を表わせない高校時代のこと、あの頃抱えていたいくつもの想いが詰まった、こそばゆい感傷小説。あえて身内だけを意識する語り口にはちょっとクセがあり、自ら読者を選んでいるようです。

「ハミザベス」栗田有起 集英社文庫480
奇妙な手触りの作品。現実ばなれした設定だけど、全く奇をてらった印象はまったくなく、二人の女性、というより女の子の交流とそれぞれの生き方が淡々と語られる。現実から少し遊離した感覚をもう少し味わってみたい。川上弘美さんや小川洋子さんを始めて読んだ時のような、今後への期待がむくむくと。