<10月下旬の読書>

読書力が低下中。でも3冊とも読みでがあります。

「となり町戦争」三崎亜紀 集英社1470
公報のお知らせでとなり町との開戦を知った主人公北原修路の元に「特別偵察業務従事者」の任命。戦況の悪化に伴い推進室の香西さんと仮の夫婦になることに。奇想天外な設定ながら、ぶっ飛んだ感じは無く、むしろ無自覚に色んなものを犠牲にして成り立っている現代社会を痛烈に諷刺して、生きることの非情、失うことの痛みを感じさせる、切ない小説。戦争でさえ、いつかどこかで始まり終わる、何の現実感もなく事態は進行している、現に今も。小説すばる新人賞受賞作。

「水曜の朝、午後三時」蓮見圭一 新潮社1400本
妻の母親四条直美が死の床で娘葉子に対して残した、若き日々の記録という設定の物語。“自分は普通ではない”と自覚している女が語る傲慢で身勝手な歴史なのだけど、そう切り捨てることのできなモノがある。不良じみて他者とは違う、そんな女に好意を抱いている語り手のフィルターを通している(の設定)が絶妙。良家の子女として期待されながら、万博ホステスとして親元を離れ、熱に浮かされた季節に理想の男、臼井さんに恋をし、そして彼の事情を知り恋を捨てた直美という女への共感と反感、何か起こった人生と何も起こらなかった人生と。自らを特別と思える人と、そうでない人と。自意識を逆撫でされるように感じるのは卑屈にすぎるか(笑)。あの時代の熱狂が直美の人生と共振し余韻を残す。

「ビネツ−美熱−」永井するみ 小学館1800本
有名エステサロンにヘッドハントされた麻美。技術を磨き自信を深めていく麻美の前に「神の手」を持った伝説のエスティシャンサリの影。その後を追うように、オーナーの義子柊也が開発する美容液に惹かれる麻美。女達が抱えるそれぞれの欲、嫉妬、野心、そして家族関係に隠れた危うい愛情。あくまでもミステリー形式として得体の知れない悪意を設定したところがよいか、悪いかは微妙だけど、美容を施す側の陶酔、女の醜さも、同時に自分の感覚を頼りに世界を進もうとする強さも鮮明に描き出している。世間的には評価されにくいかな、永井さんらしいと思うけど。私は好きです。
水曜の朝、午前三時