「夏のこどもたち」川島誠

「夏のこどもたち」川島誠 角川文庫438本
新作なのかなと思ったら、91年作。あの「800」よりも前の作品。
朽木元中学三年生、学業は優秀だけど運動はからきしだめ。なぜなら僕には左目がないから。世の中をクールに観察する立場を決めているのに、先生の的外れな期待によって問題児高橋と校則問題特別委員に任命される。彼女の中井の家も問題ありでセックスは許してくれない。没頭するのは双眼鏡での覗き。学校での騒動に家庭の崩壊、アルコール漬けの母親、爆発する性欲、ぼくにはやりたい事が無い。そして中井がいなくなるり、母親の錯乱から逃れるために、やるに値することは何か?おいつめられたぼくが決心した先生の強姦、それさえうまく行かなくて・・。いいことなんて無い。けれど人生そんなものだ。いいさ中井が戻ってきたんだから。
川島さんの物語は実に“痛い”。森絵都さんや笹生陽子さんと全然違うところはやっぱり男の子的な痛さにある気がする。
そして文庫本のおたのしみ、解説は今江祥智さん。驚いたことに作家川島誠が世に出るきっかけを作ったらしい。今江さんの“過激で硬派、セックスをかぎに今生きる子供たちの悩みやいきっぷりにきちんと応えようとしている”という評のが実にぴったり。
最近の「NR(ノーリターン)」はこどもものからは抜けて、テンポのよさが際立った青春物で、少し方向が変わってきたのかも知れない。是非どんどこ作品を書いて欲しい人だ。