名古屋で「アマゾニア」粕谷知世

6月中旬、3日ほど名古屋付近に出張してました。周りに何もない工場と目の前のホテルに缶詰で、Jは密かにアマゾンの奥地にトリップしてました。軽めの本ばかり読んでるJには珍しく大作、3週間ごし。

「アマゾニア」粕谷知世 中央公論新社2000本 装画 高橋常政
3週間越しで読んだ大作。著者は68年生まれ、大阪外語大イスパニア語科卒01年「クロニカ 太陽と死者の記憶」で第13回ファンタジーノベルを受賞、本作は受賞後初の長篇で期待の新鋭らしい。

16世紀アマゾン川流域、<森の娘>と呼ばれる精霊に守られる泉の部族。家族を殺された恨みを晴らし敵のオンサの部族を殲滅したばかりの大弓部隊の隊長赤弓。新たに森の娘の宿り主となった夢見鳥。平穏になるはずの部族で、おきてを破って生まれた男子を秘匿した花衣。折りしも黄金郷を探す部隊からはぐれた二人のスペイン人が紛れ込む。待ちつづけた思い人ヘレスに心奪われる娘。男を排除し秩序を保ってきた部族が、娘の加護を無くしたその時、オンサの部族の呪いが降りかかる。怨霊により大勢が殺し合い死んでいく。そして死者達の水底の森で赤弓の苦しみは続く。自分は間違っていたのか?
女だけの部族のたくましい女達、傲慢なスペイン人、いくつもの部族、お宿りの儀式、結びの宴など独自の儀礼、一族に起こる激変という物語性、加えて何と言っても荒々しくも豊かでなアマゾンの自然という絶好の舞台を備えた壮大な物語。惜しむらくは随所に挿入される説明調の語りが、物語に入り込むのを邪魔して勢いをそがれる。それでもアマゾンに暮らすゆえの死生観、過去に囚われる娘達がそれでも根っこに持っている生きる力、圧倒的な森の力を堪能できる読み応えある作品。カバーの高橋常政の絵が物語にぴったりで素晴らしい。
アマゾニア