「代筆屋」辻仁成

「代筆屋」辻仁成 海竜社1300本

まだ売れない作家が口コミで代筆を引き受けるという設定が実にずるくて、上手い。このご時世に手紙、それも代筆してまで手紙を渡したいということは、もう必然的にドラマがあるってことなので。本来たった一人だけに宛てたもののハズなのに、小説として臭み(作為というか読ませようという色気というか)がぷんぷんするのだけど、まあ手紙に対する万人共通のノスタルジーによって美しい物語に昇華されている。その人の人生のまとめだけを切り取って額に入れるのは、相当に贅沢で傲慢なことかもしれない。ちゃんと物語としてのその後も知りたくなるようなお話も多い。売れない作家と吉祥寺、レオナルドという薄暗いカフェ、そして代筆というすこし後ろ暗いような、秘密めいた仕事がとても上手くマッチして独特の雰囲気を出している。
辻仁成は実は江國さんとのコラボ「情熱と冷静のあいだ」以外、読んだの始めてと思う。