連休前半(帰省中)の読書

ラッシュライフ伊坂幸太郎 新潮文庫629本体

いまや押しも押されぬニューウエーブ作家(というらしい)の伊坂さんの2作目。幻想的な前作から方向転換して、仙台の町を舞台に、画商と金で買われた女画家、知的で人生を見通したような泥棒黒澤、神(タカハシ)に焦がれる父に自殺された青年河原崎、失業中の冴えない男と汚れた犬、配偶者の殺害を企てる不倫中の女スンセラー、5つの物語がオムニバス形式の映画のようにそれぞれに進行し、やがて有機的に絡み合っていく。エッシャーのだまし絵のように巧妙に入り組んで、最後に仕掛けがわかってやっと全体が俯瞰できる。警句に満ちて、確かにうまいなぁと思うし、気になるキャラクターもいるし、この後も気になるけど、まだ伊坂さんをすごく好きとはいえない。伊坂さんの人気の訳が知りたいので、次作「陽気なギャングが地球を回す」を購入してみた。

「マリモ 酒漬けOL物語」山崎マキコ 新潮文庫552本体

山崎マキコさんの「ためいきも、イエスタディ」は昨年bestの一冊。その前の作品「さよなら、スナフキン」や「声だけが耳に残る」に似た印象の作品で初小説。著者の体験に由来しているのだと思うけど、痛い。食品会社の商品開発で、親身になってくれる友人もありながら、冷酷な上司を盲信して破滅の道へ突っ走り、夜毎お酒におぼれるOL大山田マリモ。次の会社では会社の歯車に徹しようと努め、居場所を求める。“私を認めて、誉めて!”と全身で叫んでいるようなマリモ、得られないことを恐れて、最初に言い訳を準備してしまうような臆病さ。でもね誰かが見ていてくれるはず、なんて幻想。自分のことは自分で大切にするしかない。嫌悪さえ感じる自虐的な大半を、それでも読んでしまうのは、この人なら最後にはこのループから抜け出せるはずと判っているから。うむ殆ど作中のできた友人坂上君の心境ですよ。本作では高校時代の先生のと再会が立ち直るきっかけとなるが、そこから抜け出した後の物語が読みたいんです、私。

「神様からのひと言」荻原浩 光文社文庫686本体
帯にある「神様は、あなたのすぐそばにいる。」というのはウソだと思う(笑)まぁ小さい希望くらいはあるかも。若気の至り、勢いで入れた狼のタトゥーを持つ中途入社のサラリーマン佐倉凉平。カーっとし易い単細胞、不毛な会議で乱闘騒ぎして飛ばされた先はお客様相談係。信じがたいクレーム電話の嵐、驚きの先輩方に、空しい苦情処理、理由も判らず出て行った彼女。しかーし、この珠川食品の出鱈目ぶりやせこい不正、サラリーマンなら誰しも笑いながら一方で心がチクリ。ありえないと言い切れない、どこかにありそうなギリギリの線なんだこれが。“青春の尻尾”の刺青をさすり、理不尽な思いを抱えながら、奮闘する佐倉に明日はあるのか。サラリマンなら苦笑いしつつ、若い日を振り返り、そしてまだまだ、と元気をもらう爽快な作品。荻原さんはユーモア作家として認知されているらしい。出会いが「明日の記憶」だったのでシリアス路線なのかと思った。軽い作品も読んでみよう。

「メープルヒルの奇跡」ヴァージニア・ソレンセン 山内絵里香訳 ほるぷ出版1300本
戦争で心に傷を負ったお父さんのため、都会(ピッツバーグ)から週末田舎(メープルヒル)にかよう一家。おそこで、豊かな四季折々の自然、心優しく見守る隣人たち、そして自然の中での作業により心の健康を取り戻すお父さん。いくつもの繰り返される自然の奇跡、そして、人とのふれあいによって起こる奇跡、メイプル・シロップ作りの描写が素晴らしい。1957年にニューベリー賞受賞した作品だそう。いままた時代は同じ困難に遭遇している皮肉。姪っ子に。
メープルヒルの奇跡