「蒲公英草紙 常野物語」恩田陸

「蒲公英草紙 常野物語」恩田陸 集英社1470
「光の帝国 常野物語」から遡って、20世紀初頭、常野の故郷に近い東北の豊かな村の慈愛深い大地主槙村家。お屋敷の末娘聡子お嬢様の話し相手、峰子の目を通して語られる物語。それぞれに個性的な槙村の兄弟達、発明に憑かれた池端老人、洋画を学ぶ若い画家椎名、心に傷を抱える仏師永慶、そして身体は弱いが誰より特別に内面から光を放つ聡子と、その夏、時を越えた縁で槙村家に滞在した不思議な春田一家。幸福な季節に出会った不思議な人達と夏の終わりに待つ出来事。
「運命」という言葉は随分安っぽくなった。幼くしてその力故の使命を受け入れ、穏やかにでも確かに生きる。村を救った常野の嫁、聡子、春田の人々それぞれが天命によって生かされ、それを受け入れて自らの生をまっとうする。こんな潔さを持っている人に焦がれる。海外に開かれ、やがて戦争に向かう時代のうねり、聡子が、峰子があの夏感じた生の喜びとともに、彼らの生き様が静かに確かに心に響く。
前作を再読したばかりで、今度は春田一族を主人公にずしりとしたお話をと期待していたけど、こういう展開でくるとはさすが恩田さん恐れ入ります。
蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)