「ユージニア」恩田陸

「ユージニア」恩田陸 角川書店1700本 
金沢の名家で起きた一家毒殺事件(中大垣事件)から10年、事件を目撃した隣家の3人兄妹の末娘、雑賀満喜子が学生時代に関係者をインタビューして書いた本「忘れられた祝祭」。そしてそれすら過去になった今、再び関係者を巡るインタビュー形式で物語が進み、事件の隠された真実が開かれる。
よそ者であった満喜子が、唯一の“鑑賞者”であることを望んだお姫様緋沙子。幼い日の出来事によってか心に蝙蝠を育て、孤独を望んだ少女が唯一心を通わせた青年と築いた心の楽園「ユージニア」。結末さえもあいまいに苦く重い、蜃気楼のような微妙な(絶妙でもある)後味の物語。恩田さんの物語のいくつか(「月の裏側」とか)は、人と同時にその地が主人公でもある。金沢の暑い夏、台風の夜の事件、成巽閣(せいそんかく)の「群青の間」、白い百日紅さるすべり)、和洋折衷のお屋敷、海辺の公園とS字型のベンチと雰囲気もたっぷりで幻想的な仕立てのミステリを演出する。
直木賞は逃したけど恩田さんの引き出しの多さを思えば、これでなくてもいいよね。