「港町食堂」奥田英朗 /2

「港町食堂」奥田英朗 新潮社1365 2006.02.12
直木賞作家となって多忙な日々に突入する前後の港町紀行シリーズ。高知・土佐清水、五島、宮城・牡鹿半島、韓国・釜山、敦賀佐渡稚内礼文。奥田さんの小説もだけど、スポーツを題材にしたエッセイがとても好き。変人と怠惰と志の低さ加減が(いやホントは口ほど、そうでもないからちゃんと賞だってとる)心地よい。そのテイストはこの紀行でも全開、とにかく美味しいものを食べ、飲み、ちょっとだけ観光し、あとはだらだら。このだらけ具合が港町にあっている気がする。あぁ島旅したい。
港町食堂

「マルコの夢」栗田有起 /2

「マルコの夢」栗田有起 集英社1300本
姉の薦めで人気レストラン「ル・コント・ブルー」のキノコ係を務めるカズマ。名物料理に使われる“マルコ”というキノコ探しの命をうけ日本に戻るカズマを待っていたのは、離婚寸前の両親、そして菌食推進委員会。カズマの運命を操っていたのは・・
栗田ワールド炸裂。 ちなみに私はキノコ大好きなんだなぁ(笑)

「沼地のある森を抜けて」梨木香歩 /2

「沼地のある森を抜けて」梨木香歩 新潮社1800本一族の家宝である“ぬか床”を引き継いだ久美の周辺に発生する、不可思議を綴った幻想的な物語が、後半、一族の故郷「島」に向かうところから、物語は一気に生命への壮大な思索への突入。
エッセイ「ぐるりのこと」でも終始こだわっていた自己と他者の境界についての自問自答は今も続いている。こんな哲学、生命論を小説でやってしまう辺り。そして、ラストの不思議な交歓は梨木さんの新しい試みかとも思うので、今後にますます注目。
沼地のある森を抜けて

◇最近買った本2006.02◇

年末年始と浮ついた気分で過ごし、本を読まなくなってました。
やっと日常に落ち着きを取り戻しつつあり、気が付くと読みたい本が山です。

殆どの本は図書館で借りて読むのだけど、文庫や人気の本は買ってしまう。
曲がりなりにも仕事をし一人で暮らしているんだし、欲しい本くらい買えなくて、
どうするという気持ちで、つい、あれもこれも買ってしまうんですね(笑)

◇買ってはみたものの山になってる本◇
チーム・バチスタの栄光海堂尊 現役医師の描く最先端医療世界を舞台にしたミステリ 宝島社1600本
「ほんものの魔法使」ポール・ギャリコ ちくま文庫780本 
「青空の卵」坂木司 創元推理文庫753本 引きこもり探偵の登場する青春ミステリ
「陽のあたる坂道」石坂洋次郎 角川書店781本 確か昔読んだことがあると思うんだけど。
「やっぱり、ニューヨーク暮らし。」渡辺葉 集英社文庫686本 
熊の場所舞城王太郎 講談社文庫420 初めての舞城作品になるか
包帯クラブ天童荒太 ちくまプリマー新書798 「永遠の仔」に乗りそびれ、初めての天童さん。
推理小説秦建日子 河出文庫620 TVドラマが面白いので、原作もチェック(したい)
「オアシス」竹内真ヴィレッジブックス630 竹内さんは珍しくブログまで時々見る作家さん
「ヴォヤージュ!2」Mrs.fフェリシモ出版1399 旅のお土産を楽しく。
本の雑誌3」本の雑誌社530
「スイミングマガジン」729 久しぶりに北島康介選手が表紙。彼のコメントはいつもブレがなく、
明確な目的とそれに向かうまっすぐな意志が、強さというものを思い出させてくれる。
最近読んだコミックスの話はまた今度。

「いつかパラソルの下で」森絵都/11

「いつかパラソルの下で」森絵都 角川書店1470
厳格な父に縛られて育った野々と兄春日、妹花、父の死後バランスを失った母。一周忌を前に、父に不倫相手がいたことを知る。束縛から逃れ鮮やかな世界を満喫し、自堕落な生活を送ってきたはずの野々や兄は自分達の人生が突然空しくなる。父とは一体どんなヒトだったのか?世界から愛されていない、と感じている全ての人に、森さんからのメッセージ「どんなにがんばっても受け入れられたり、受け入れられなかったり。すべては誰のせいでもなく、自分のせいなのよ」と。児童ものであっても、大人向けでも森さんのメッセージにはぶれがないなぁ。
いつかパラソルの下で

「埋み火」日明恩/11

「埋(うず)み火 Fire‘s Out」日明恩(たちもりめぐみ) 講談社1800本
出張で持っていく本は旅行よりも更に難しい。今回は完全に失敗。行きの飛行機でハマり仕事前日なのに最後まで読んで夜中に(泣)。しかも帰りに買った本は機内に忘れてきた、トホホ。
シリーズ2作目、金のためと嘯きながらも実は熱血の消防士雄大。死者まで出した現場で感じた違和感、余りにできすぎた偶然の重なりから、失火を装った老人の連続自殺火災が見えてくる。そして彼らの影に少年裕孝(ゆたか)の存在。ミステリーとしては後半(裕孝とのやり取り)は完全に蛇足。が困ったことにそういう青臭さが気に入ってる。雄大の愚直なまでのまっとうさが眩しい。彼の目を通した消防署の面々、友人が熱く、活き活きと描かれていることは間違いない。

<10月下旬の読書>

読書力が低下中。でも3冊とも読みでがあります。

「となり町戦争」三崎亜紀 集英社1470
公報のお知らせでとなり町との開戦を知った主人公北原修路の元に「特別偵察業務従事者」の任命。戦況の悪化に伴い推進室の香西さんと仮の夫婦になることに。奇想天外な設定ながら、ぶっ飛んだ感じは無く、むしろ無自覚に色んなものを犠牲にして成り立っている現代社会を痛烈に諷刺して、生きることの非情、失うことの痛みを感じさせる、切ない小説。戦争でさえ、いつかどこかで始まり終わる、何の現実感もなく事態は進行している、現に今も。小説すばる新人賞受賞作。

「水曜の朝、午後三時」蓮見圭一 新潮社1400本
妻の母親四条直美が死の床で娘葉子に対して残した、若き日々の記録という設定の物語。“自分は普通ではない”と自覚している女が語る傲慢で身勝手な歴史なのだけど、そう切り捨てることのできなモノがある。不良じみて他者とは違う、そんな女に好意を抱いている語り手のフィルターを通している(の設定)が絶妙。良家の子女として期待されながら、万博ホステスとして親元を離れ、熱に浮かされた季節に理想の男、臼井さんに恋をし、そして彼の事情を知り恋を捨てた直美という女への共感と反感、何か起こった人生と何も起こらなかった人生と。自らを特別と思える人と、そうでない人と。自意識を逆撫でされるように感じるのは卑屈にすぎるか(笑)。あの時代の熱狂が直美の人生と共振し余韻を残す。

「ビネツ−美熱−」永井するみ 小学館1800本
有名エステサロンにヘッドハントされた麻美。技術を磨き自信を深めていく麻美の前に「神の手」を持った伝説のエスティシャンサリの影。その後を追うように、オーナーの義子柊也が開発する美容液に惹かれる麻美。女達が抱えるそれぞれの欲、嫉妬、野心、そして家族関係に隠れた危うい愛情。あくまでもミステリー形式として得体の知れない悪意を設定したところがよいか、悪いかは微妙だけど、美容を施す側の陶酔、女の醜さも、同時に自分の感覚を頼りに世界を進もうとする強さも鮮明に描き出している。世間的には評価されにくいかな、永井さんらしいと思うけど。私は好きです。
水曜の朝、午前三時